ホーム > けやきニュース > 所長のコラム > プロジェクトX

所長のコラム -Vol.15-

プロジェクトX

 

 言わずと知れたNHKのTV番組、現在放送されているのは30年位前?に放送されたものの再放送です。当時は忙しくてほとんど見ていませんでしたが、今はビデオに撮っておいて見ています。

 

 そこに描かれているのは戦後の混沌とした時代のエネルギーです。私が大学を卒業して初めて 求職の面接に出向いたのは、当時日本に一つしかない超高層ビル、霞が関ビルの一室でした。分厚い絨毯の重厚な室で面接官の外国人と対面しましたが、一歩外に出ると、古ぼけたバラックの工場や飲食店が軒を並べる街並、そんな時代のドキュメントです。

 

 先の大戦において、世界の三大強国の一角を占めていた日本ですが、アメリカの技術力と物量作戦の前に、あるいは日本の官僚主義(有能かどうかでなく年功序列でトップに立つ)、情報の軽視、精神主義(必勝の信念、神頼み)等々敗因は色々あると思いますが、敗れ、日本の主要都市は灰塵と帰しました。戦場から帰ってきた心ある人々は、「なにくそ、もう一度やり返す」、「もう一度、誇りを取り戻す」、という気概で産業の第一線に立った様です。その人たちの物語、これが “プロジェクトX”なのです。

 

 戦前の造船技術を生かし、世界初の20万トン級タンカー(出光丸)を作った技術者たち。当時、世界一と謳われた戦闘機(零戦)を作った技術者たちが、禁じられていた航空機製造が解除された後、再結集して、日本初の国産旅客機YS-11を作った堀越二郎たち。世界に先駆けて正確無比な腕時計(クオーツ腕時計)を開発したセイコーの技術者たち、コダックのカメラを追い落としたデジタルカメラの開発に取り組んだソニー(ソニー創業の理念は日本の復興)や富士フィルム、カシオ計算機の面々(コダックは2012年倒産)、ゼロックスに対抗して普通紙複写機を開発した面々(キャノン)、マスキー法(車の排気ガスに悩んでいたアメリカが排気ガスの大幅削減を義務付けた法律、とても無理だと自動車業界が大反対を繰り広げた)を世界で初めてクリアーしたホンダ(シビック)の技術者たち、そのプロジェクト名は何と、“硫黄島上陸作戦プロジェクト”・・・。

 

 あの頃の熱気はとうの昔に消え失せました。バブル崩壊によって金融機関が次々と倒産し、企業は守りに入って投資しなくなり、賃金も上がらなくなって早30年、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”(世界一)の座は一時の夢に終わりました。

 

 今は円安による物価高で家計も企業もあえいでいます。ただ戦後に比べれば格段に豊かになり 生活レベルは上がりました。なんとなく不安だけれど、まぁ良いか!・・・これが今の日本だと思います。日経新聞は6月10日の紙面でこう言っています。『課題は山積しており、明白なのに何もしない。皆がぬるま湯につかり忍びよる危機に対処できない“ゆでガエル”にならないか心配だ。』と。