静岡県の川勝知事がこんな発言をした。『県庁というのは別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日毎日野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいは物を作ったりとかいうことと違ってですね、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い人たちです。・・・』
何ということもない、県庁への新入職員を前にしての訓示である。これぐらいのことは言うだろうと思う。しかし恐ろしいなと思うことが2つある。1つは閉ざされた空間での発言でも簡単に漏れてしまうということ。真意は職員を励ます言葉であっても、職業差別発言といえばその通りで、知事はやめざるを得ないところまで追い込まれた。今までの業績がどうであれ・・・言葉は恐ろしいものである。
もう一つ、こちらが本質だとおもうのだが、この言葉の裏には『官尊民卑』の思想が色濃くにじんでいるということである。俺たちは偉いんだ、県民を指導するのだという思想である。県民の声を聴き、県民に寄り添って一人一人の幸せを支援する、それが政治の根底に無ければいけないのではないか。話は飛ぶが、政府はいろいろなことを考えて国民に押し付けてくる。消費税の軽減税率、ふるさと納税、6月から始まる定額減税・・・一体こんなことが本当に必要なのか。これらに対処しなければならない国民の経済的損失は計り知れないと思うのである。
そして思い出すのは我が会計事務所業界を震撼させたあの飯塚事件である。ある日、鹿沼と東京の2か所の飯塚会計事務所に税務調査官がどやどやと押しかけ帳簿をひっくり返した。同時に飯塚事務所の多くの顧客企業にも税務調査が開始された。名目は飯塚税理士が脱税指導をしているということだが、その真意は国税庁に盾突く生意気な奴だ、叩けば必ずほこりがでる、やってしまえという私怨、官尊民卑の思想である。その過程で飯塚税理士の知らないところで関与先の二重帳簿や脱税も発見され、国税庁はこれをもみ消すから飯塚事務所を離れろという、目的は飯塚税理士を貶めることにあった。事務所の職員も脱税指導に加担したという嫌疑で4名が逮捕、未曽有の大調査が続けられ600件あった関与先のうち有力な顧客200社が離れていった。ところが飯塚税理士の脱税指導というのは当時としては全く合
法的なもので、中小企業を守るための手段として飯塚氏が多用していたものであった。職員も監査ミス、ケアレスミスはあったかもしれないが全く脱税指導というものではない、法廷闘争でこのことが明らかになるまでに何と7年余も要したのである。飯塚税理士はこれに耐えた。逆に国税庁の脱税もみけしという不正が明らかになるのである。
この事件は私が会計事務所を開く前、東京オリンピック前後の話で、後に聞いたり、映画で見たりしたものですが、こんなこともあったのかと驚愕したものです。
飯塚氏は当時のお金で1億9,000万円余の損害賠償を請求すれば貰えたものを、私憤は残さないとあっさりと放棄し、税理士としての己の道を堂々と生きてゆくのです。後に栃木県計算センターを立上げ、これが上場し、世に知られるTKCという会社になるのです。飯塚氏の税理士としての姿勢に共鳴し全国から立ち上がった同志が“TKC全国会”を結成し活動することになりました。