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所長のコラム -Vol.24-

映画  ”生きる”

 

 浦髙(県立浦和高校)時代、授業を抜けだしては場末の映画館に出入りしていました。多くは時間つぶしのくだらない映画で、まったく覚えていませんが、唯一感動した映画がありました。それが黒澤明監督の“生きる”です。数年前ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏(長崎生れ、父の仕事の都合で、5歳で渡英)が脚本を書き、リメイクされたイギリス映画“リビング・生きる”が3月31日公開され話題になっています。カズオ・イシグロ氏も若い時に見たこの映画に感銘し、生涯を掛けて追及している己の小説のテーマになっていると述懐しています。『うつろで浅い人生になるか、実りある人生になるかは、自分の選択だ、というのが“生きる”から受け取ったメッセージです。その価値観は今も変わっていません。』(新聞記事から引用)と述べています。

 

 自分は何に感動したかと言えば、主人公(志村喬)が亡くなった後、お通夜の席で皆が主人公は何であんなことをしたんだとワイワイ語り合う場面です。そこで主人公の生きざまがだんだん見えてくる、そのシーンとそれを象徴する、主人公が雪の降る夜、公園のブランコに乗って口ずさむ“ゴンドラの歌”のシーンです。


   いのち短し 恋せよ乙女
   朱き唇 褪せぬ間に
   熱き血潮の 冷えぬ間に
   明日の月日の ないものを


   いのち短し 恋せよ乙女
   黒髪の色 褪せぬ間に
       心のほのお 消えぬ間に
       今日はふたたび 来ぬものを


 この映画は昭和27年(1952年)の作だそうで、戦後のどさくさが残る、貧しくみすぼらしい日常生活が映し出され、当時の自分の心境に合致していたのでしょうか、親近感を覚えたものですが、どんな時代であっても、人は同じように悩み、同じように感じながら生きてゆくものだとこの映画を見て感じます。どんな時代であれ、世の中がどうであれ、人はその中で生きてゆくしかありませんが、願わくは世の中に流されることなく、心を強く持って、他人からどう思われようと、自分の楽しみを見つけてやりたいことをやり、自分の信念を貫いて生きてゆきたいなと改めて思います。それがこの映画の自分なりの感想です。