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所長のコラム -Vol.26-

家康に見る、弱者の経営戦略

 

 NHKの大河ドラマ“どうする家康”は見ておりません。その理由は「家康については色々とドラマや小説である程度知っている」、又「45分程の放映時間では歴史の真実は見えてこないだろう」などと勝手に思っているからですが、本屋を覗いたら『徳川家康 弱者の戦略』(磯田道史)という本を見つけ読んでみました。これは今まで疑問に思っていたことを、かゆいところに手が届くように、素人向けに分かりやすく解説してくれる作品で、面白く一気に読みました。例えば弱小領主であった松平家がどうして生き延び、天下を取るまでになったのか(家康は6歳から19歳まで人質として過ごしています)、三方ヶ原の戦とは本当はどういうものだったのか、なぜ家康は戦いに挑んだのか?なぜ武田勝頼は無謀とも思える突撃を繰り返したのか(長篠の戦い)等々あげればきりがありませんが・・・。そこから見えてきたものは弱者の戦略と呼べるものでした。

 

 私たち中小企業は、世界に通用するような技術やシェアを持った一部の企業や、業界によっては中小企業が主流の一部の業界を除き、皆弱者であると思います。弱者の戦略としてはランチェスターの法則が有名です。英国人ランチェスターが第一次世界大戦におけるドイツとフランスの戦いを分析し編み出した法則です。そこで言われていることは、弱者は局地戦(一騎打ち)に持込むこと、これは織田信長の桶狭間の戦い、家康の小牧・長久手の戦いで取られた戦法です。敵がいかに大企業・大軍団であろうとも局地戦で勝つという戦法です。勿論、1対1でも負けるようでは勝負になりません。そこで一人一人が勝てる戦闘力を持つことが大事です。それには一人一人の力量、又高性能な武器も必要になるでしょう。ビジネスに置き換えれば一人一人の人間性や商品知識、又差別化された商品やサービス、地域におけるブランド力、あるいは情報で優位に立つことなどと言えるでしょう。

 

 本の話に戻しましょう。

 

 家康は強敵と繰り返し戦っているうちに「共進化」を起こし、化け物のように強くなっていったとあります。その要諦は相手の戦法・強さを徹底的に調べ上げ、対処法を編み出し、時には同化するというものです。その例として長篠の合戦を取り上げます。まず勝頼の積極果敢な性格、大平原での騎馬軍団の強さ、その上で平原である設楽原を戦場に選びます。この平原は地面がぬかるんでいます。又大地を削って急斜面にし、柵を結います。更に別動隊を編成して勝頼の退路を断つ準備をした上で勝頼をおびき出すのです。これが「弱者がとるべき戦略」として著者が述べているところです。又家康は多くの同盟(密約)を結び、時にはこれを一方的に破棄しています。「経営者は自分が結ぶ契約の賞味期限を見抜かねばなりません。」これも著者が述べているところです。又「組織にとって最大のダメージは人材を失うこと、世間からの信を失うこと」と述べ、今川氏真や北条氏政が戦うべき時に立ち上がらず信を失った、それに比べ家康は強敵、武田信玄に挑み惨敗した(三方ヶ原の戦)、が信を得た、と述べています。